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更新日:2008年3月19日

山根 成人(しげひと)さん~「ひょうごの在来種保存会」代表~

 江戸時代からの歴史を持ち、そのとろけるような甘みが人気の岩津ネギ。現在、採種ほ場整備などで優良系統を確保し、ブランド力の強化を図っています。その背景にあるのは、ここ最近見られていた形質のばらつきなどの品質低下。8年前にその変化に気づき「20年前に食べた岩津ネギの味が忘れられない」と本場・朝来町岩津地区を訪れたのが山根成人さんです。それから8年間、伝統的な岩津ネギの復活を願い多くの人とともに取り組むため、50回以上にわたって岩津に通い続けました。

 姫路市でリフォーム店を営みながら、県内で脈々と生産されてきた名もなき作物をこよなく愛し、光を当ててきた山根さん。活動の輪を広げるべく平成15年に「兵庫の在来種保存会」を発足させました。

 ふるさと兵庫の種採り人・山根成人さんに食と命と文化と人にまつわるストーリーや思いを聞きました。

~ひょうごの食を掘り起こす~

復活したえび芋畑で収穫を喜び合う

・・「ひょうごの在来種保存会」はどんな活動をしているんですか?


 消えていきつつある県の在来種の野菜や穀物を保存することを目的とした活動を行っています。ここで意味する「保存」とは、種を単に冷蔵保存することではなく、毎年栽培し、種を採り続けることにより守っていくことです。具体的には、伝統的に良く知られている作物はもちろん、地域や家族で受け継がれてきた名もない作物を見つけ出し、保存します。そして、種そのものも大切ですが、種を採り続けている人、すなわち“種採り人”を発掘することもまた大事な目的です。採種技術や調理法なども含めて情報を整理し、年2回ほど発行する通信で会員に発信しています。現在、会員数は約500人。農業を生業としている農業者や、私のように家庭菜園など家族で食べる分だけを栽培している人、学識者や消費者、料理人といった応援してくれる人たちなどさまざまな人に支えられています。


・・見つけ出された作物の一つに“えび芋”がありますが、その復活ストーリーはどのようなものですか?


 姫路のえび芋は、100年ほど前から栽培されていて、一時は皇室に献上したり東京の築地市場で高値を張ったりするほど栄えていたんですよ。それが4、50年ほど前から徐々に農業をする人が減ってしまい、今では自家用に作っている人が数人。そんな中、岡本清重さんという人が種を採りながら毎年栽培しているという話を聞き、押しかけて行ったんです。復活させようということで。でも、えび芋は夏場の労働が苛酷でしんどい。だから、作業を分担し岡本さんの労力を軽減しながら保存運動ができる“オーナー制”を提案し、同時に「えび芋保存会」をスタートしました。えび芋の生産をしながら、地元の料亭「谷かつ」の協力を得て試食会を行い、おいしさを生かす調理法の研修もしました。また、大阪にプロの料理人お墨付きの野菜を扱う「セレクト」という八百屋があるんですが、えび芋の味や形に太鼓判を押して仕入れてくれたんです。3年目にしてやっとよみがえりました。食を扱うプロが認めてくれたことが自信につながって、市のセンターで催す品評会などに出品したりして広がりが生まれてきています。県内外の会員さんの力添えも大きな支えとなっているんですよ。


~種採りの出発点~

えび芋(手前)と山根さんの種たち

・・種を採る活動を始めたきっかけは何ですか?

 

 私が幼い頃には、仕立て屋を営んでいた私の家にも小さな畑があったのですが、昔は本当に畑仕事が好きじゃなくてね。それが、家族を持ち食生活を見直すきっかけがあって、1984年から有機農業をやり始めたんです。有機農業の理念の根本には“自給自足”ということがあるんですが、種を採らずに自給と言えるのだろうかと疑問を持ち始めたんです。調べてみると、有機農業の生産者もF1品種(特長が異なる品種を掛け合わし品種改良が施された交配種。従来の品種に比べ病気に強い、日持ちが良いなどの優れた特色を持つ反面、一代限りしか育たず採種しても同じ形質の物は生産されない)に頼らざるを得ない現状があることがわかりました。種採りの煩雑さや経済的なことも含めて、それはある意味、致し方ないことでもある。でも、その陰で昔から地域で受け継がれてきた種がどんどん無くなっていたのも事実です。それで、まずは自分の農の中で種採りをしてみようということで最初に採種したのがゴマだったんです。


・・活動をやっていてよかったなぁと思うのはどういうときですか?

 

 名もない、販売もあまりされていないけど、味が良くて作るのを止められない作物を見つけることがやはり一番の楽しみですね。その名もなき作物に生産者とともに名前をつけるんですが、それが面白くてやめられません。たとえば、加西市に親子三代にわたって生産されてきたニンニクがあるんです。地元の焼肉屋さんに頼まれるからずっと生産を続けてこられたものですが、初めて食べた時はこれぞニンニクというような強烈なにおいと味に感動したものです。生産者の北本恵一さんと「これは播磨の王さんやな」という話になって「ハリマ王ニンニク」と名前を付けたんです。今では地域の特産にしようという動きも出てきているんですよ。


~未来につなげる~

美方わさび畑と生産者の稲尾さん

・・県立大学で若い学生と畑を耕されていますが、接してみていかがですか?


 もともと10年ほど前に、兵庫県立大学の前身である姫路工業大学の吉田教授が畑をしたいということで始めたんですが、そのうちキャンパスの西の端にある50坪の土地を開墾して畑を作ったんです。授業ではなくただ二人で。2、3年して「足元から環境を考える」というグループの学生が畑をさせてくださいと来たことがきっかけで毎年学生が参加するようになってきました。それが授業の一環となったきっかけは、当時環境人間学部の教授だった清原さんの「フィールドワークとして単位をつけるというのはどうか」という提案でした。最初は単位欲しさに畑を耕すということに対してあまり乗り気じゃなかったんですが、逆にこれを機会に土に触れ、農や環境を見直すきっかけとなるという学生たちの意見に期待して、平成16年にスタートしたんです。

 もちろん単位取得が終わったら来なくなる学生も、ずっと来る学生もいます。でも、今年卒業した学生の中には初めて香美町で美方わさび農家に入って卒論を書いた学生もでてきました。今まで3人の学生が農業関係に就職したのですが、そのことはとてもうれしいですね。


・・現在、食の安全安心が叫ばれていますが、私たちの食に関してどう思われますか?


 昔、アイルランドで100万人ほどの住民が一度に死に至り、100万人が逃亡したということがあったそうです。その原因はジャガイモ。英国人が持ち込んだジャガイモただ一品種がアイルランドの新しい主食になり、その主食であるジャガイモが不作などで2、3年採れず飢饉になったんですね。これは、一つの品種にすべてを委ねた結果で、多様な品種で我々の食は支えられているのです。今の日本を見てみると、米ひとつとってもコシヒカリを中心として7つほどの品種が70%を占めている現状。経済至上主義的な観点から単品化が進められているんですね。江戸時代は1000以上もの品種があったそうですよ。

 さらに、日本の食料自給率はカロリーベースで約40%。つまり半分以上は海外からの輸入に頼っているということですね。食の安心安全だ、穀物や大豆の値上げだとなったとたんに大騒動になっているでしょう。足もとがぐらぐらですよ。食糧の自給ができない国は先進国とは言えないという哲学があると少なくとも私は思っています。現に一般に先進国と言われている国のほとんどは食料自給率が日本よりもはるかに高い。英国も1970年代には日本と同じような自給率になっていましたが、今はもう70%ほどになってきています。昔のようにみんながもう一度、畑と田んぼを持ち、作物を作り、そこから真の先進国を目指したいものです。


・・未来に向けての思いを教えてください


 私は自分の紹介として「兼農商家」という言葉を使っています。これは兼業農家をもじったものですが、兼農の後ろにはどんな職業の言葉も入れられますよね。就農ではなくても、自分の生命を維持するための基本的な営みとしての農を多くの人ができれば良いと思います。

 そしてこの活動にとってはこれからも応援団してくれる人がとても大事です。作ったものを買い支える役がいりますからね。農業者として、学者として、消費者として、それぞれできることは違いますが、みんなで取り組むということが大切です。

 私自身は、これからもできるだけたくさんの生産者に会いたいと思うんです。活動の中で大事なことは歩くこと、動くこと。現地まで出向いて、地域の固有種を守り続けてきた一人ひとりに会って話をし続けたいと思っています。


~取材を終えて~

山根さんの畑・岩津ネギとともに

 美方ワサビ、岩津ネギ、春日大納言小豆、えび芋、ハリマ王ニンニク・・。山根さんのお話の中には、兵庫県で生き続けてきた作物がたくさん出てきます。それと同時にまた、生産者の皆さんの個人名もたくさん出てくるんです。山根さんの種採りの活動は、その作物を生産し、兵庫の食文化を脈々と受け継いできた皆さんに出会うこと、在来種を育む人の姿をこのふるさと兵庫に残してゆくことに本当の喜びがあるのではないか、とも感じます。種採り人の山根さんは、同時に人と人とをつないできた“種まき人”でもあるのですね。

 取材の帰りに、山根さんの畑を見せていただきました。夏ほどの勢いはないものの、ハリマ王ニンニクや岩津ネギが力強く冬の土に根を張っています。3本ほどネギを抜いて「もって帰り」と渡して下さいました。さっそくいただいてみると、岩津ネギ本来のおいしさがあるのはもちろんですが、一口ごとに山根さんの思いをかみしめている気がして、また格別なおいしさ!普段スーパーで生産者の顔が見えない野菜に伸ばしてきた手が、今後は少し止まりそうです。

 保存会の皆さんの活動に感謝しながら、私たちの命をはぐくみ、ふるさとの文化を担う食に対して、これからは私自身が心掛けられることは何だろうと考え、実践していきたいと思います。(米田)

 

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